S建設会社事件 会社に対して支払いが命じられた残業代の額:332万8266円 上下水道などの設計・工事請負を行う会社の元配管工の方2名が、会社に対して残業代や解雇予告手当の支払いを請求した事案です。配管工の方々は、就業時間を午前8時から午後5時までと決められて雇用されましたが、所定の就業時間外に、その日の作業の準備や後片付けをしなければならず、また、事務所と作業現場との間を車で往復もしなければなりませんでした。 東京地方裁判所は、退職の合意の成立を認めて解雇予告手当の請求は棄却しつつ、会社に残業代の支払いを命じる判決を下しました。裁判所は、労働時間は一般的に、「使用者の作業上の指揮監督下にある時間または使用者の明示または黙示の指示によりその業務に従事する時間」であると定義した上で、以下のような理由により、作業の準備・後片付けの時間や、現場までの往復の移動時間も実働時間となると判断しています。 所定の就業時間の前後に行った、資材や作業道具の準備・後片付け作業、日報の作成に要した時間の労働時間該当性-肯定 ・従業員は、一旦は皆で事務所から徒歩5分ほどの駐車場兼資材置き場に来て、会社車両に資材等を積み込んで事務所に午前6時50分ころに来ていた ・その後、親方らとの間で現場や番割りなどの業務上の打ち合わせが行われ、その間も、資材を車両に積み込んだり、現場や作業につき親方の指示を待つ状態にあった ・従業員が当日どこの現場へ差し向けられるかは、天候、当日の欠勤や、各現場の作業の進捗状況に応じて会社代表者が采配していた ・現場への直行はほとんどなかった このような出勤状況及び会社の作業の指示状況からすると、朝に事務所へ午前6時50分には来ることを実質的に指導されていたと評価でき、直行の場合を除いて少なくとも午前6時50分以降は使用者の作業上の指揮監督下にあるか使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事しているものと考えるのが相当である。 ・帰りについても、行きと同様に親方と組になって現場の作業を終えた後も車両で事務所へ戻ることが原則的な勤務形態となっている ・事務所に戻った後も、他の班が戻ってこないときは道具の洗浄や資材の整理等をしていることが認められる ・これらの作業あるいは現場から資材の残りや必要道具等を車両に積み込んで事務所なり駐車場兼資材置き場に持ち帰る作業がひとり親方だけの担当であったと考えるのは妥当ではない このような実態にかんがみると、黙示に使用者である会社代表者の指示によりその業務に従事していたものと考えられるから、現場から事務所に戻った後の時間も実働時間に含めて取り扱われるべきである。 事務所から現場を往復する移動時間の労働時間該当性-肯定 車両による作業現場への移動時間も、親方と組になって会社代表者との打ち合わせなり指示に基づき赴いているものであることからすると、拘束時間のうちの自由時間とは言えず実働時間に含めて考えられるべき筋合いのものというべきである。 現場の作業終了後は事務所へ従業員らは一旦戻ることが原則化していることなどからすると、行きのときと同様に車両による帰還のための移動時間も含めて実働時間と捉えるべきである。
残業代請求が認められた事例 |